自律運航船とは?注目されている理由は?無人化の取り組みついて
  • 自律運航船とは
  • なぜ注目されているのか
  • 自律運航船のロードマップとは

こんな疑問にこたえる内容となっています。

本記事の内容
・自動運航船とは?
・自動運航船が注目されている理由とは?
・完全な無人化を目指す取り組みについて

イルカ

この記事を書いている私は、もと海洋技術者です。自動車免許を持っておらず船舶免許のみ保有しています。

船が自動運航船になると、航海士や機関士が仕事を失うのでは?衝突しないの?と思うことはないですか。

私はインターネットが1時間毎に100kbの時代に海で働き始め、様々な船で勤務してきましたが、無人化はまだまだ先だと考えていました。

当記事では、海事業界の新たな潮流である自動運航船についてご紹介していきます。

これから海で働きたい方や既に働いている方の参考になれば幸いです。

自律運航船とは?

自動運航船とは?

自律運航船とは何かというと、読んで字のごとく、「自動で運転を行う船」のことです。

遠隔地から送信されてくる指令や自律機能によって自動的に航行することがでくる船舶のことである

清水悦郎「わが国の自動運航船開発の現状」『Ocean Newsletter』第479号、海洋政策研究所、2020年7月20日

船舶事故の約7割はヒューマンエラーが原因であり、自動化システムの導入により、下記が期待されています。

  • 船員の業務負担軽減
  • ヒューマンエラーの減少

ただし、ひと口に自動で運転する船といっても、色々な段階のものがあります。

国土交通省ロードマップ

国交省では3つの段階として下記を示しています。

  • フェーズ1:IoT技術活用船
  • フェース2:陸上からの操船や高度なAI等による行動提案で、船員をサポートする船舶
  • フェーズ3:自律性が高く、最終意思決定者が船員ではない領域が存在する船舶
国土交通省ホームページより

自律化レベル(ロイド船級協会)

ロイド船級協会では自律化レベルとして次を提唱しています。

概要
AL 0自動化なし
AL 1船上での意思決定支援:船の運航は、船員が意思決定。船上の最適な航路表示等の支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。
AL 2船上及び陸上での意思決定支援:船の運航は、船員が意思決定。船上または陸上から機器製造者による機器メンテナンス、航路計画に関する支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。
AL 3積極的な人間参加型:船の運航は、人間の監視の下で自律的に実行される。船上または陸上から提供されるデータにより、重要な決定は人間によってなされる。
AL 4人間監視型:人間の監視の下で自律的に実行される。重要な決定については人間によってなされる。
AL 5完全な自律:船舶のシステムが決定したことについて、人による監視がほとんど行われない。
AL 6完全な自律:船舶のシステムが決定したことについて、全く監視がなされない。
国土交通省海事局 課題の整理と検討の方向性(自動運航船)より

このレベル分けに基づくと、海運業の最新船はAL1とAL2に該当します。

IoT活用による船員等の判断支援がメインです。

次のレベル、AL3への取り組みの一例としては、日本郵船の取り組みがあります。

自律運航船|日本郵船の取組み

日本郵船は、日本財団が実施する「無人運航船の実証実験にかかる技術開発協同プログラム」において「DFFASプロジェクト」のメンバーとして採択され、2022年2月にコンテナ船の無人運航(東京湾~伊勢湾)の実証実験を実施予定です。

これまでの主な取り組みは下記のとおり:

  • 2019年度9月、IMO(国際海事機関)が定めたガイドライン「自動運航船の実証試験を行うための暫定指針」のルールに基づく世界初の実証実験を実施
  • 2020年5月14日発表、操船タスクを自動化する自律船フレームワーク「APExS」(注1)を構築。船級認証を取得
  • 2020年5月20日発表、タグボートを使用した遠隔操船実船試験の成功
  • 2020年6月15日発表、日本財団の無人運航船プログラムに参加

(注1)APExSは、航行時に必要な「情報収集」「分析」「計画」などの操船タスクの最適解を提示。提示内容は、乗組員の承認を経た上でのみ実行。

これまでの「有人自律運航船」で培ったノウハウで2025年までの本格的な実用化を目指しています。

有人自律運航船から無人運航船を目指す

これまで有人自律運航を目指していると公言してきた日本郵船が、無人運航船の実現を目指す理由として、次が紹介されています。

「内航海運が揺らげば、日本経済も揺らぐ。そうなれば当社も影響を免れない。日本郵船グループの技術や知見を活用すれば、課題解決のためのソリューションを提供できる」

日本郵船グループは自動運航船の研究開発で培った知見を生かし、日本財団のプロジェクトで国内内航船における無人運航の実用化を目指す

日本海事新聞

自律運航船の課題

まだ限定した環境下における要素技術の開発段階であり、以下の課題がある。

  • 小型船の自動検出
  • 自律機能で対応できないケースやその場合の人間への引継ぎ
  • サイバーテロリズム
  • ネットワーク断絶による不測の故障
  • 国際海事機関(IMO)および国内の法令改訂
ポイント
  • 現在の自動運転は、船員の支援がメイン。
  • 人間の判断のもと自律航行できるレベルまで実験が進んでいる。
  • 2022年2月には無人運航船の実運用を模擬した実船実証(予定)

自動運航の船について実験が進んでいますが、注目されている理由は何なのでしょうか。

自動運航船が注目されている理由とは?

自動運航船が注目されている理由とは?

自動運航船が注目されている主な理由には、以下のとおり。

・海難事故の予防へのニーズ
・船員不足対策
・自動運転を支える諸要素が整備

海難事故の予防

海難事故の予防には、その原因の7割といわれる人為的要因(ヒューマンエラー)を自動化で防止することが期待されています。

以下のヒューマンエラーは、いずれも自動化が可能です。

  • 見張り不十分
  • 操船不適切
  • 機関取扱
  • 船体機器整備不良
  • 気象海象不注意など

人間は高齢化による注意力や体力の低下が避けられませんが、機械にはその心配はありません。

船員不足の対策

船員不足の問題への対策としては、以下が期待されています。

  • 自動化による船員の省人化
  • 労働環境の改善による船員離れ防止

船員不足については、世界的な船員需要の高まりがあります。そしていわゆる3Kであり若者離れが深刻です。

スキル豊富なベテラン船員のノウハウを、受け継いでいくためにも、そのスキルの自動化と、労働環境改善による若者の定着が望まれています。

参考:船員への転職そして船員からの転職

自動運転を支える既存技術の存在

自動運航を支える既存技術の存在も、海難事故の防止・船員不足解消のニーズによる自動化を後押ししています。

  • 海上ブロードバント通信
  • AIS(自動船舶識別装置)
  • ECDIS(電子海図)
  • INS(航海統合システム)
  • 遠隔による機器の予防保全(陸におけるKOMATRAXなど)

今後は、IoT技術の船上への拡大やGPS等へのサイバーセキュリティ対策にも、既存の技術が利用されると考えられます。

ポイント
  • 海難の防止、船員不足への対策に期待
  • 自律運航は、既存技術の導入可能な成長市場

ここまで、自動運転の船と、注目されている理由についてご紹介してきました。

次に、完全な無人化を目指した海外の取り組みをご紹介します。

完全な自動運航を目指す取り組みについて

完全な無人化を目指す取り組みについて

海外における取り組みや国内の取り組みについて、順に見てきます。

無人自律運航船の取り組み【海外】

海外においても、完全な無人化を目指す取り組みが行われています。

特徴:

  • メーカーが主導
  • 環境問題対策の要素も大きい
  • モーダルシフトが強い要因

AI船長

The Mayflower Autonomous Ship Project“と名付けられたIBM社のプロジェクトでは、太陽光と風力で作られた電力、そしてバックアップのディーゼル発電機により、AI船長が自律的に判断しながら「無人による大西洋横断航行」を行います。

船速は、20ノットで2週間以内の航程とのこと。

周囲の船の把握には、AIS(Automatic Identification System:船舶自走式別装置)を使用し、AI船長が他船からの無線通信を理解して音声でコミュニケーションをとり、針路変更の判断をします。

搭載された「AI船長」は、船上ローカルで使用可能であることを目指しており、ネットやGPS接続が断続的であっても、サイバーアタックの脅威から保護しながら、周囲の状況を感知し、運航します。

※2021年9月7日に、Mayflower号は科学データ観測用のプラットフォームとしての運用テストを再開。秋から冬にかけて英国に帰港予定。2022年には大西洋横断予定。

自動貨物船

  • ノルウェーでは自律貨物船を建造し、荷役作業や離着桟も自動化する計画
  • Rolls-RoyceはIntelとパートナーシップを締結、2025年までに貨物の自動船を世界の海に届ける計画

無人自律運航船の取り組み【国内】

国内における無人運航船の動きとしては、国土交通省が、実用化に向けた研究・開発を推進しています。

特徴:

  • 国と船主が主導
  • メーカー、造船所などが多く参画

上に述べた日本財団や日本郵船などによる取り組みに加えて、ベンチャーなども参画してきています。

楽天は独自の物流網構想「One Delivery」で無人貨物船をノルウェー企業と共同開発。楽天はこれとドローン(小型無人機)などを組み合わせたラストワンマイルサービスを構築すると発表しています。

完全無人化による事故発生時に備えて、自動運転車と同じく法律面やサイバーセキュリティの検討も進められつつあります。

自動運航船の安全設計ガイドライン

国土交通省は2020年12月7日に、下記の項目で、安全設計ガイドラインを公表しています。

(1)運航設計領域の設定
(2)ヒューマン・マシン・インターフェイスの設定              
(3)自動化システム故障時等の船員の操船への円滑な移行措置
(4)記録装置の搭載
(5)サイバーセキュリティの確保
(6)避航・離着桟機能を実行するための作動環境の確保
(7)遠隔制御機能を実行するための作動環境の確保              
(8)リスク評価の実施
(9)自動化システムの手引き書作成
(10)法令の遵守

国交省 自動運航船の安全設計ガイドライン(項目)
イルカ

AIや自動化によって乗組員の労働環境が改善され、若者が望んで働きたいと望む業界になることを期待しています。

2040年までに内航船の5割を無人運航船とすることを想定しているとのことです。

ポイント
  • 国内外で実証試験や法整備等が進んでいる
  • 国内では2040年までに内航船の5割を無人運航船とする計画

実用化されている無人運航船

小型の無人運航船は実用化されており、一例として海洋無人観測艇(WaveGlider)はJAMSTEC海上保安庁が運用しています。

この他にも多くの無人グライダーが海洋において、科学や保安、軍事用途で使用され始めています。

自律運航船まとめ

今回は自律運航船についてご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。

IBMは、無人船長船(メイフラワー号)へのAIだけでなくFood Trustというブロックチェーン技術を水産物業界に提供しています。また国連環境計画(UNEP)と共同で、市民科学者からのデータとAIにより海洋汚染に取り組むプロジェクトも進めているとのことで、IT企業が海の業界に及ぼす影響が日々大きくなるのを感じます。

ITや自動車業界と同じく、船においても海外のSlerにシステム全体を設計・統合されてしまうことのないように、日本が海の自動運航において世界をリードすることを期待しています。