
自動運航船とは?なぜ注目されているの?どういった取り組みがあるの?
こんな疑問にこたえる内容となっています。
✅本記事の内容
・自動運航船とは?
・自動運航船が注目されている理由とは?
・完全な無人化を目指す取り組みについて

この記事を書いている私は、もと海の技術者です。
今回は、海の産業の新たな潮流である自動運航船について、次のことを知ることができます。
- そもそも自動運航の船とは?
- なぜ注目されているのか?
- 無人化の取り組みについて
AI(人工知能)についてはMBA取得時にかかわりがあり、それ以降興味を持ち続けていたため情報をまとめてみました。
目次
自動運航船とは?

「自動運航の船」とは、文字通り、自動で運転を行う船のことです。
ただし、ひと口に自動で運転する船といっても、色々な段階のものがあります。
ロイド船級協会では自律化レベルとして次を提唱しています。
概要 | |
---|---|
AL 0 | 自動化なし |
AL 1 | 船上での意思決定支援:船の運航は、船員が意思決定。船上の最適な航路表示等の支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。 |
AL 2 | 船上及び陸上での意思決定支援:船の運航は、船員が意思決定。船上または陸上から機器製造者による機器メンテナンス、航路計画に関する支援ツールが船員の意思決定に影響を与える。 |
AL 3 | 積極的な人間参加型:船の運航は、人間の監視の下で自律的に実行される。船上または陸上から提供されるデータにより、重要な決定は人間によってなされる。 |
AL 4 | 人間監視型:人間の監視の下で自律的に実行される。重要な決定については人間によってなされる。 |
AL 5 | 完全な自律:船舶のシステムが決定したことについて、人による監視がほとんど行われない。 |
AL 6 | 完全な自律:船舶のシステムが決定したことについて、全く監視がなされない。 |
このレベル分けに基づくと、海運業の最新船はAL1とAL2に該当します。
IoT活用による船員等の判断支援がメインです。
次のレベル、AL3への取り組みの一例としては、日本郵船の取り組みがあります。
- 2019年度9月、IMO(国際海事機関)が定めたガイドライン「自動運航船の実証試験を行うための暫定指針」のルールに基づく世界初の実証実験を実施。
- 2020年5月、操船タスクを自動化する自律船フレームワーク「APExS」を構築。
APExSは、航行時に必要な「情報収集」「分析」「計画」などの操船タスクの最適解を提示します。
そして提示内容は、乗組員の承認を経た上でのみ、実行に移されます。
- 現在の自動運転は、船員の支援がメイン。
- 人間の判断のもと自律航行できるレベルまで実験が進んでいる。
自動運航の船について実験が進んでいますが、注目されている理由は何なのでしょうか。
自動運航船が注目されている理由とは?

自動運航船が注目されている理由は、海難事故の予防や船員不足対策へのニーズ、自動運転を支える諸要素が整ってきたことにあります。
海難事故の予防
海難事故の予防には、その原因の8割といわれる人為的要因を自動化で防止することが期待されています。
- 見張り不十分
- 操船不適切
- 機関取扱
- 船体機器整備不良
- 気象海象不注意など
これらのヒューマンエラーは、いずれも自動化が可能です。
人間は高齢化による注意力や体力の低下が避けられませんが、機械にはその心配はありません。
船員不足への対策
船員不足の問題への対策は、自動化による船員の省人化と、労働環境の改善による船員離れ防止が期待されています。
船員不足については、世界的な船員需要の高まりがあります。そしていわゆる3Kであり若者離れが深刻です。
スキル豊富なベテラン船員のノウハウを、受け継いでいくためにも、そのスキルの自動化と、労働環境改善による若者の定着が望まれます。
自動運転を支える既存技術の存在
自動運航を支える既存技術があることが、海難事故の防止・船員不足解消のニーズによる自動化を後押ししています。
- 海上ブロードバント通信
- AIS(自動船舶識別装置)
- ECDIS(電子海図)
- INS(航海統合システム)
- 遠隔による機器の予防保全(陸におけるKOMATRAXなど)
これらの技術が自動運航船に使われていきます。
今後は、IoT技術の船上への拡大やGPSへのサイバーセキュリティへ対策も、既存の技術が使用されると考えられます。
- 海難の防止、船員不足への対策に期待
- 自律化市場は、既存技術の導入も進む成長市場
ここまで、海運における自動運転の船と、注目されている理由についてご紹介してきました。
次に、完全な無人化を目指した取り組みをご紹介します。
完全な自動運航を目指す取り組みについて

海外における取り組みや国内の取り組みについて、順に見てきます。
自動運航船の取り組み【海外】
海外では、完全な無人化を目指す取り組みが、2020年の9月に予定されています。
“The Mayflower Autonomous Ship Project“と名付けられたIBM社のプロジェクトでは、太陽光と風力で作られた電力、そしてバックアップのディーゼル発電機により、AI船長が自律的に判断しながら「無人による大西洋横断航行」を行います。
船速は、20ノットで2週間以内の航程とのこと。
周囲の船の把握には、AIS(Automatic Identification System:船舶自走式別装置)を使用し、AI船長が他船からの無線通信を理解して音声でコミュニケーションをとり、針路変更の判断をします。
搭載された「AI船長」は、船上ローカルで使用可能であることを目指しており、ネットやGPS接続が断続的であっても、サイバーアタックの脅威から保護しながら、周囲の状況を感知し、運航します。
ノルウェーでは、Yara Bikelandという自律貨物船が2020年後半に商業運航を開始、Rolls-RoyceはIntelとパートナーシップを結び、2025年までに貨物の自動船を世界の海に届ける計画をしています。
2020.10.2追記
Mayflower号は現在港にあり、2021年春の大西洋横断を目指しているようです。
自動運航船の取り組み【国内】
国内における無人運航船の動きとしては、国土交通省が、実用化に向けた研究・開発を推進しています。
楽天は独自の物流網構想「One Delivery」で無人貨物船をノルウェー企業と共同開発。楽天はこれとドローン(小型無人機)などを組み合わせたラストワンマイルサービスを構築すると発表しています。
完全無人化による事故発生時に備えて、自動運転車と同じく法律面やサイバーセキュリティの検討も進められつつあります。
AIや自動化によって船乗りの労働環境が改善され、若者が望んで働きたいと望む業界になることを期待しています。
2020.6.14追記
日本海事新聞に以下の見出しがありました。
無人運航船の実証実験始動。海運・造船など日本連合40社。世界初、25年までに実用化
日本海事新聞
2040年までに内航船の5割を無人運航船とすることを想定しているとのことです。
2020.10.2追記
日本海事新聞に下記の記載がありました。
日本郵船グループは自動運航船の研究開発で培った知見を生かし、日本財団のプロジェクトで国内内航船における無人運航の実用化を目指す
日本海事新聞
これまで有人自律運航を目指していると公言してきた日本郵船が、無人運航船の実現を目指す理由として、次が紹介されています。
「内航海運が揺らげば、日本経済も揺らぐ。そうなれば当社も影響を免れない。日本郵船グループの技術や知見を活用すれば、課題解決のためのソリューションを提供できる」
- 無人運航の船による大西洋を横断が計画中
- 法整備やサイバーセキュリティなどの検討も進んでいる
- 2040年までに内航船の5割を無人運航船とする計画が開始
実用化されている無人運航船
小型の無人運航船は実用化されており、一例として海洋無人観測艇(WaveGlider)をJAMSTECや海上保安庁が運用しています。
私はJAMSTEC以外の組織ですが、海洋観測の技術員の立場でこの装置に携わっていました。
海上保安庁の有資格者試験とは?社会人から海上保安官になれる?またその仕事内容は? このような疑問にお答えする記事となっています。 ✅本記事の内容・海上保安庁の有資格者採用について・海上保安庁の有資格者採用試験について・有 …
自動運航船の安全設計ガイドライン

国土交通省は2020年12月7日に、下記の項目で、安全設計ガイドラインを公表しています。
(1)運航設計領域の設定
国交省 自動運航船の安全設計ガイドライン(項目)
(2)ヒューマン・マシン・インターフェイスの設定
(3)自動化システム故障時等の船員の操船への円滑な移行措置
(4)記録装置の搭載
(5)サイバーセキュリティの確保
(6)避航・離着桟機能を実行するための作動環境の確保
(7)遠隔制御機能を実行するための作動環境の確保
(8)リスク評価の実施
(9)自動化システムの手引き書作成
(10)法令の遵守
自動運航船まとめ
大西洋初横断400周年を記念して建造された新しいメイフラワー号による船長も船員もいない完全無人航海の結果が楽しみです。
IBMは、メイフラワー号へのAIだけでなくFood Trustというブロックチェーン技術を水産物業界に提供しています。また国連環境計画(UNEP)と共同で、市民科学者からのデータとAIにより海洋汚染に取り組むプロジェクトも進めているとのことで、IT企業が海の業界に及ぼす影響が日々大きくなるのを感じます。
ITや自動車業界と同じく、船においても海外のSlerにシステム全体を設計・統合されてしまうことのないように、日本が海の自動運航において世界をリードすることを期待しています。

自動運転の船、注目されている理由、無人運航の取り組みについて、ご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
ご参考になさってください。